第2回 ワークショップ
「日・中・韓における近代化の諸相と近代文学との関係」
(法政大学大学院棟)
日程 |
報告
尹相仁氏(漢陽大学)
「韓国人にとって「日本小説」とは何であるのか」
尹氏の発表内容は、韓国における「日本小説」の受容の歴史とその特色に関するものである。それは1950年代以降、90年代に至る「日本文学」の韓国語への翻訳の歴史の紹介でもあった。韓国語に翻訳された日本の作家を具体的数値に基づき、三浦綾子や川端康成、芥川龍之介や三島由紀夫等の名前を紹介された。それは今年4月に『日本文学の韓国語翻訳60年』(ソミョン出版社)として刊行される。尹氏の翻訳をするということ、それ自体がその国の文化的独立性を示すことになるという考え方は、かつての日本の文化的支配を経た民族が獲得した貴重な卓見でもあった。さらに、今日の韓国における「日本文学ブーム」は村上春樹作品が翻訳されたことが契機になっているが、それは村上作品を受容できる韓国の市場経済の成熟と個人化の進展が関連していると指摘された。 [伊藤 博] |
楊偉氏(四川外語学院) |
中国現代文学の牽引者は「ポスト新時期女流作家」と言われる陳染や林白といった女性作家たちである。彼女らの小説の特徴は「個人化写作」と言われる個人の内面を重視した自伝的表現形態(作法)である。楊氏はこの「個人化写作」的文学傾向の発生過程を現代中国の自由主義化・資本主義化に伴う「個人の解放」を軸に分析された。文革の終息以後、所謂社会主義的リアリズムの軛から解放された中国現代文学の流れが明瞭に示され、「個人化写作」的女性文学の発生母体にポストモダニズムとフェミニズムの思想があることも判明した。楊氏はさらに、自然主義から生まれたとされる日本の私小説と、個人の解放が「美女作家」という珍現象を齎すに至った「個人化写作」との差異を言及されたが、その点は今後さらなる検討が必要である。[齋藤秀昭] |
姜宇源庸氏(漢陽大学)
「日本の私小説と韓国の自伝的小説」
今回の姜宇氏の発表では、2004年1月に韓国で刊行されたバン・ミンホ氏編集の『韓国の自伝的小説』(全二巻)に注目し、その本で紹介されている1920、30年代の作家とその「自伝的小説」を列挙し、私小説と似た点、違う点を考えた。東京へ留学経験があるインテリの玄鎮健、女性社会主義者・姜敬愛、夭折した芸術至上主義的天才作家・李箱など9名の作品が取り上げられた。日本では「文壇」という特殊なギルドが存在したため、脱社会しても自己を思う存分掘り下げる環境があった。一方、当時の韓国では植民地化の進む祖国が切実な問題で、国家・社会を背負った作家の脱社会は脱文壇をも意味し、執筆活動は不可能になる。病気や家族・友人の死などモチーフの類似点はあるが、作品の方向性(「私」を求めるか、社会批判をするか)に違いがあることが分かった。[大西 望] |