The Japanese Watakushi shôsetsu/Shi shôsetsu as Seen in Relation to Asian Culture
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第3回 ワークショップ

「日中韓における文学比較――「私小説」「自伝的小説」を中心に――」

(法政大学80年館)


日程

【第1部】2007年8月21日(火) 
基調報告 安英姫(嶺南大學学校)「「私小説」の言語および描写の韓日比較」

【第2部】2007年8月22日(水)~24日(金) 
集中討議  「日中韓「私小説」言語比較――「城の崎にて」を基点に――」
基調報告 姜宇源庸(韓国語、漢陽大学)・楊偉(中国語、四川外語学院)


報告

安英姫氏(嶺南大學校)
「「私小説」の言語および描写の韓日比較」

安英姫

今回の発表は、安英姫氏の博士論文を基にした言語および描写の韓日比較論である。まず、田山花袋「平面描写」と岩野泡鳴「一元描写」とを実作を引用して比較しながら日本近代文学の描写法を辿った。次に、岩野泡鳴とほぼ同時代の金東仁の主張した「一元描写」および言語を見て、韓日文学それぞれの小説技法の発展を指摘。最後に、韓国で「身辺的私小説作家」(白鐵)と言われる安懷南を取り上げて私小説と韓国の「身辺小説」の比較がなされた。話し合いの中では、韓国には日本のような読みの土壌がないので私小説が成立しないのではないかという意見や韓国では(中国でも)、いまだに私小説と言えば告白、暴露小説というイメージが根強いという現状が指摘された。[大西望]

 

姜宇源庸氏(漢陽大学)
「韓国における私小説論議」


姜宇源庸

姜宇氏の発表は、昨年、李漢正氏によって報告された「韓国における私小説認知の現状」の続きでもある。当研究課題では、研究の取りかかりとして、韓国、中国、台湾における「私小説」認識を調査してきた。その成果として、小説の社会性を重視する中国や韓国においても、個人化傾向が垣間見られ「私小説」に近い作品が書かれているということが報告された。姜宇氏の今回の発表もそれを例証するものである。韓国において50年代から「私小説」なる語が日本文学とは関係なく使われている例がみられること、また90年代、文芸雑誌『現代小説』に「自伝的私小説」と称する欄が存在し、創刊から終刊の12号まで毎号続いていたという興味深い事実が報告された。今後、実際に作品を読みすすめることで、韓国における「私小説」事情がより明らかになってくると思われる。[山中秀樹]

 

集中討議
「日中韓「私小説」言語比較――「城の崎にて」を基点に――」

集中討議

今回のワークショップでは、志賀直哉の「城の崎にて」の韓国語訳・中国語訳を日本語に翻訳し直し原文と比較するという試みに挑戦した。主語の扱い(中国語は多く補足、韓国語は逆に削除)、受動的表現の現象など細かな点では様々な発見があった。が、結果、「城の崎にて」1作をもって、それぞれの言語的特徴であると断定するのは難しいということになった。それでも韓国語訳の主人公はより能動的人物に、中国語訳の場合は論理的な人物に感じられるなど、1人称小説ならではの興味深い発見もあった。また、作中にある「范の犯罪」についての記述が中国語訳では、すべて削除されていることが楊氏から報告された。中国人に対する差別的感情が見られるためではないかということであったが、これもまた文学作品の翻訳における難しさの1つであると感じた。[梅澤亜由美]


以降のワークショップ、研究集会報告は、追って掲載いたします。


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